MENU

ホテルを探して寒い夜道を歩いた話 - AUSTRALIA -

No.401/2011.05
ナイロン樹脂ビジネスユニット/ 植田 尚史
画:クロイワ カズ

3年前の8月、T君と2人でオーストラリアのケランという町に出張しました。メルボルンから汽車で3時間余り、人口四千人足らずの小さな町。夏場はリゾートとして観光客も多いようですが、南半球では8月は真冬。夜10時ごろ駅に着き、タクシーに乗ろうと、行列に並びました。ところが、やってくるのはマイカーばかり。家族を迎えに来たらしく、一緒に並んでいた人たちを乗せて次々と家路につきます。そして誰も居なくなりました。列車は1日に2本、その日はもうありません。仕方なくT君と2人で地図を頼りにホテルまで歩くことに。

真っ暗な夜道にゴロゴロとカバンのキャスターの音だけが響き、時折肌を刺す風がコートの襟元に吹き込んできます。小1時間も歩くと、町の中心部に着きました。ホテルは直ぐに分かりましたが、玄関は閉まっています。呼び鈴を押しても返事はなし。階下のバーには明かりが点いているので入ってみました。数人の若者が談笑中です。その1人に訊いてみました。

「冬場はどのホテルも休業だよ!」と、冷たい返事。

T君は「確かに予約したのですが…」と弁解します。

近くのホテルらしきところを数軒当たってみましたが、やはり何処もクローズド。今更慌てても仕方ないので、先ずは腹ごしらえにと小さなピザ屋に入りました。

ピザ屋の主人が親切にあちこち電話してくれて、営業中のモーテルが一軒だけあるとのこと。ダメ元でタクシーを呼んでもらいました。とっくに深夜を過ぎています。モーテルには空き部屋がありました。助かった!寒空に野宿を覚悟していたのです。

翌朝、客先に行くのにタクシーを頼んだところ、やってきたのは昨夜と同じ車。町で唯一のタクシーかも…。