MENU

駐在員は奥さんを大切にすべしという話 - SINGAPORE -

No.409/2012.01
石炭ビジネスユニット/ 花本 雄三
画:クロイワ カズ

20世紀が終わろうとする頃、望んでいたシンガポール駐在が決まりました。機械とセメントビジネス中心の小さなオフィスですがれっきとした現地法人。業績はパッとしません。事業の建て直しを図るため、化学品の売込みを優先課題と定めました。

こちらでは主たるマーケットは日系企業の現地会社です。幸い、シンガポールに東南アジアの本部機能を置く会社も少なくありません。ネットワークを拡げることからスタートしました。とはいえ、肩に力が入りすぎたのか、最初は引合の一つも貰えません。苦節半年、チャンスは思わぬところからやってきました。

ある日、オフィスに日系企業のTさんから電話。
「お宅の奥様にウチの家内が色々お世話になっているようですな。一度お茶でも飲みに来ませんか」

Tさんは某大手化学会社の現法の社長。日本人会などで面識はありますが、これまで仕事の関係は皆無。おっとり刀で出かけました。Tさんの話では、奥様が妻とゴルフ友だちで非常に気が合うとのこと。四方山話の後、
「インドネシアとタイの工場の責任者に花本さんのことを話しておくから、直接出向いてみては…」と有り難いアドバイス。ゴルフ好きの妻を当地の名門ゴルフ場の会員にしておいたのが功を奏したのです。

早速、インドネシアとタイに出かけ商談のスタートです。Tさんの口利きもあって話はとんとん拍子に進み、遂にコンテナー単位の商談が成立しました。妻のお陰で初手柄。深々と頭を下げる私に妻はニッコリと笑顔で答えました。

その妻は現地駐在中に病魔に侵されて帰国。無念にも、昨年5月、帰らぬ人となりました。あの時の妻の笑顔は今も私の心に深く刻み込まれています。