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第15回UBEクラシックコンサート 特別対談

第15回UBEクラシックコンサート

次世代音楽文化振興事業
日本フィルハーモニー交響楽団 宇部公演

代表取締役社長泉原雅人×ヴァイオリニスト小林美樹氏

「共存同栄」の精神で地域の子どもたちに音楽を届けたい

UBEグループでは、2008年より「音楽を通じた地域文化振興への貢献」を目的として、「UBEグループチャリティコンサート」を実施してきました。第15回目の節目となる今年は、「UBEクラシックコンサート」と名称を変え、子供の音楽教育(学校教育)支援により重点をおいて実施します。本公演に向けて、泉原社長とソリストとして出演するヴァイオリニストの小林美樹さんに、公演にかける思いを語っていただきました。

音楽家としての人生に感謝
泉原社長: 本日はありがとうございます。今年の「UBEクラシックコンサート」は、ソリストとしてヴァイオリニストの小林さんにお越しいただけるということで、とても楽しみにしています。
小林さん: ありがとうございます。
©山吹康男
泉原社長: 小林さんは1990年にアメリカでお生まれになったとお聞きしていますが、ちょうどその頃、私もニューヨークに駐在していました。ニューヨークなどはあらゆる音楽や美術に触れる機会に恵まれた街ですが、米国でも日本でも地方都市ではなかなかそうはいきません。宇部でのコンサートも、地域の方々に一流のオーケストラの演奏を生で楽しんでいただくことに大きな意義を感じています。
小林さんは、何歳からヴァイオリンを始められたのですか。
小林さん: 両親ともに音楽が好きで、4歳のときに1/8サイズのヴァイオリンで練習を始めました。今、使用している楽器は、15歳のときに祖母に買ってもらったもので、1929年にイタリアのファニョーラというヴァイオリン職人が作った楽器です。楽器を探しているときに、何十挺と試奏してもなかなか気に入るものがなかったのですが、14年間一緒に過ごした愛犬が亡くなった翌日に、楽器店から連絡が入り、今の楽器に出会いました。愛犬の生まれ変わりだと思って大事にしています。ヴァイオリンは何十年、何百年と、その時代の演奏家が受け継いでいくもので、私もこの楽器の歴史の一部を預かっていることになります。
泉原社長: なるほど。演奏家にとっていい楽器との出会いは運命的なものですね。お姉さまもプロのピアニストとして活躍されていますが、姉妹で同じ楽器をやりたいと思ったりしませんでしたか。
小林さん: ピアノは一人で演奏することが多いですが、私は一人よりも、他の人と合わせて演奏することが好きなので、ヴァイオリンが向いていると思います。
泉原社長: ヴァイオリンの練習と学業の両立は大変だったのではないでしょうか。
小林さん: 音楽が大好きで、物心ついたときには音楽の道に進むことしか考えていなかったので、練習が大変だったという思い出はまったくありません。音楽の道に導いてくれた両親には本当に感謝しています。
個性を生かして本領を発揮
泉原社長: 小学生の頃から数々のコンクールで賞を取られて、「ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール」では、第2位を受賞されていますね。若くして才能が花開き、素晴らしい経歴をお持ちですが、行き詰まることなどはなかったのでしょうか。
小林さん: 小学生の頃に全日本学生音楽コンクール小学校の部・東京大会で1位をいただいたのですが、高校生になって海外のコンクールに挑戦するようになると、ただ上手に演奏しているだけでは、上位にあがれなくなりました。日本のコンクールの評価はマイナス方式ですから正確に弾くことが重視されますが、海外のコンクールの評価はプラス方式です。他の出場者が、舞台上で女優のように堂々と振る舞っているのを見て初めて、プロの演奏家にとって大切なことは、良い演奏に加えて、舞台上での振る舞いや個性をアピールすることだと気づきました。それからは本領を発揮できるようになったと思います。
泉原社長: やはり海外に出ると、様々な意味で自分を見つめ直す機会になりますね。ウィーンに留学されていたとお聞きしていますが、留学生活はいかがでしたか。
小林さん: ウィーンは日常に音楽が溢れている街です。お手洗いのBGMがオペラの曲だったり、タクシーの運転手さんが音楽の話をしていたり、まるで息を吸うように、音楽が存在していることが印象に残りました。そんな素晴らしい環境で学べてとても幸せでした。
泉原社長: 普段はどのくらい練習されているのでしょうか。
小林さん: コンサートの前は食事をするとき以外はずっと練習しています。でもコンサートの翌日は、楽器を触らないと決めてリラックスしています。
泉原社長: 体力的にも大変でしょう。登板翌日のピッチャーの完全休養日のようですね。コンサートの前のプレッシャーは、やはり相当なものですか。
小林さん: 細かいことが気になって、寝る直前まで練習のことを考えていますが、もともとマイペースなので、切り替えも早いです。間違えないかと心配するより、お客様に良い演奏を届けることを考えるようにしています。
泉原社長: 企業経営も同じですね。失敗を恐れてチャレンジしないと飛躍を望めませんし、弱みを改善することも大事ですが、企業の価値の向上のためには、むしろ強みをどう伸ばしていくかを考えることの方がより一層大事ではないかと思っています。
音楽を楽しむ喜びを届け続けたい
泉原社長: 話は変わりますが、新型コロナウイルスの感染が拡大して、多くのコンサートが中止になりましたね。どんなお気持ちでしたか。
小林さん: 2020年の2月から8月にかけて、コンサートが中止になってしまい、練習しても披露する場がないと思うと、気持ちも落ちこんでしまい、趣味のパン作りに没頭していました。5月くらいにようやく気持ちが前向きになって、練習曲を1日1ページだけでも弾こうと、練習を再開しました。
泉原社長: 当社でも働き方が大きく変わりました。東京のオフィスはオリンピックに向けてリモート勤務が出来る体制を準備していたので、出社率を抑えながら比較的スムーズに新しい働き方に移行できたといえます。一方、工場などでは感染対策を徹底しながら操業を継続しなければなりません。特に当社は様々な生活必需品などに幅広く使われ、社会インフラ整備のために必要とされる基礎素材を広く提供していますので、人々の生活・経済を守るためにも、各現場で知恵を絞って乗り越えてきました。
そんな大変な状況でしたが、宇部でのコンサートは、2020年も2021年も休まず開催しています。中止を決めるのは簡単ですが、「コロナだから出来ない」ではなく「コロナでもこれだけのことがやれた」と胸を張りたい、そしてコンサートを楽しみにしている宇部の皆さんのためにも、音楽の灯を決して絶やさない、という事務局の社員の熱意がそれを可能にしました。2020年はお客様の数を会場のキャパシティの5分の1に絞って2回公演を行い、2021年は2分の1、今年は本来に近い形で開催できそうです。
小林さん: なぜ、宇部市でコンサートをするようになったのでしょうか。
泉原社長: 当社は1897年に宇部の地で創業し、石炭の採掘から始まってその後、機械、セメント、化学へと事業を拡大しました。創業当初から「共存同栄」の精神を掲げ、地域社会とともに歩んできた歴史を持っています。電気や鉄道などの社会インフラや、病院、学校の設立にも貢献してきました。コンサート会場の渡辺翁記念会館は当社の創業者の功績を記念して建てられ宇部市に寄贈したものです。音響の良さに定評があり、世界的な巨匠であるヴァイオリニストのメニューインやピアニストのコルトーが公演を行ってきた由緒あるホールです。その後もそれぞれの時代に応じた社会貢献を行ってきましたが、創業110周年に地域とのつながりの面からも創業地宇部でのメセナ活動をと考え、翌2008年、宇部市民に良質なクラシック音楽に接する機会を提供し、地域の音楽文化の向上と次世代の育成に貢献することを目的として、日本フィルハーモニー交響楽団を招いてのコンサートを開催しました。もともと宇部はクラシック音楽の愛好家が多い土地柄ということもあって大好評で、チケットは即完売。毎年開催するようになって現在に至ります。
小林さん: FM放送によるライブ配信や、社員が企画・運営を行うオリジナルプログラムで地域の方から親しまれているコンサートとお聞きしています。
泉原社長: はい、本公演だけでなく、会場に足を運ぶことが難しい入院中の患者さんや医療従事者のため、本公演の前日に病院でミニコンサートも行っています(コロナ禍の下では中止)。車いすに乗っている患者さんが、指でリズムをとって楽しそうに聴いている姿を見ると、音楽を届けることの意義を感じます。
小林さん: 地域の皆さんが、本当にこのコンサートを心待ちにしているんですね。今年で15回目とお聞きしています。
泉原社長: はい。それに加えて今年は創業125年の節目の年で、社名をUBE株式会社に変更したということもあり、コンサートのあり方も見直しました。次世代を担う子どもたちの音楽教育支援に重点を置き、小中学生400人を無料でご招待します。SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」にもつながります。子どもたちに一流のオーケストラのエネルギーを実感してもらい、クラシックの魅力にもっと気付いてほしいと思っています。きっと、小林さんのヴァイオリンがその素晴らしさを子どもたちの胸に直接届けてくれることでしょう。
小林さん: 今回、私が演奏する3曲(愛の挨拶、序奏とロンド・カプリツィオーソ、ツィゴイネルワイゼン)は、誰もがどこかで耳にしたことがある名曲で、お楽しみいただけると思います。ライブのコンサートでは、同じ奏者が同じ曲を弾いても、毎回別の演奏になります。音楽のシャワーを全身で浴びて、そのとき出会った演奏を楽しんでいただきたいですね。そして、オーケストラにはいろいろな楽器で構成されています。それぞれの奏者の息遣いを感じ、演奏している姿を見て楽しんでください。ぜひ、ライブの良さを味わっていただきたいと思います。

対談後、小林美樹さんからアルバムCDをプレゼント頂きました。